思い出したこと

おそらくもう、十数年も前のことだ。
デザイン事務所を辞めて、その後をどうしようか考えていた時に
知り合いの衣装デザイナーさんが声をかけてくれたのだ。
良かったら少し手伝ってもらえるかしら?
そんな感じだった。

お店の名前は「Gréグレ」
確か、私の好きなもの。という意味だった。
そう言っていたように思う。

そのお店には、彼女がデザインをした洋服が部屋の半分の場所に飾られ
その残りの半分には、美しい骨董品や日本の版画、雑貨などが並べられていた。
美しい骨董品の数々は彼女がオークションで買ったものだった。
机やテーブル、椅子、人形やアクセサリーなどもあった。
その中でもとりわけ美を放っていたのがエミールガレのランプだった。
朝日がのぼってくるようなその自然の光を表現しているもので
神秘な空気に包まれたように、そのあかりを見ていた。

彼女の洋服はとても不思議で
着物のようだけれど洋風のようでもあり
痩せていても、そうでなくても
大抵の人が美しく纏えるものなのだ。
彼女が使う布は、光の加減で変化する。
なぜなら、縦糸と横糸の色を微妙に変えて織られているものだから。

彼女の洋服のファンは結構多く
ファンの人がお友達を引き連れて数人でお店にやって来ると
好きな服を代わる代わるに着て
ワイワイとみんな笑顔で試着しては鏡の前に立ち
次は私よ。と
女子校のような賑やかさになるのだ。
ほぼファッションショーのような感じなのだ。

そんなことを今日、思い出していた。
なんとも贅沢な時間だった。
たくさんいろんなことを話したし、教えてもらった。

数年前に彼女は亡くなってしまったけれど
想い出は私の中にたくさんある。
楽しくて、笑える話がたくさんある。
ほんとうに、たくさん。
そうして、ときどき思い出しては笑ってしまうのだ。